ソニータイマー

二十三時の公園は、月明かりをめつけて、
湿った初夏の風に沈む。
遠くに電車が線路を叩く音、
物憂い虫のが、そこかしこを埋め尽くす。

街灯は嫌味なくらいに眩しくて、
ここにも僕の居場所はない、分かっていた。
誰に向けるわけでもないスポットライトが、
アスファルトにくっきり影を塗り付ける。

分水嶺はとうに越え、
いつまで経っても恥知らず。
僕が生きてて良いことなんて一つも無かった。
一粒一粒快楽を、指の間から落としているだけ。

煙を肺に落とし込む。
夜道を歩いて歩いて、歩き殺す。
早朝、その場しのぎのブラックを飲み下す。
そうして、時計仕掛けの足音が、高く鳴るのを心待ちにして。

そんなつもりじゃなかった。
俺は誰かにはめられた。
こんなところで終わっていいはずがなかった。

  本当に、そう思うの?

この世に生まれ落ちた恩を仇で返し続けて、
それでも息をする資格があるのか分からない。
罪悪が真砂のように肺腑を満たして、
僕はうずくまって嘔吐えずきながら、
どこかのいつかを夢想する。
きっと、きっと、きっと。きっと、

僕ら骨と灰になる頃に、
名実ともに塵芥ちりあくたとなる果てに。
糸の切られた道化芝居に、踊らされた幸福に。
慈しみ深き憎しみを、歯車に忍ばせて。

存在しない針の音は、尚も胸の奥で鳴る。

2024.05.26

コメント

タイトルとURLをコピーしました