かなしみがもし
みもざの色をしていたら
ぼくの手からはおひさまの
粒があふれてくるだろう
そうして染めた足元の
ささやく声になぐさめられて
顔をおおった手のひらの
あたたかさにふと気づくだろう
かなしみがもし
あんずの色をしていたら
ぼくの口からはちみつの
ような呼気が香るだろう
そうして琥珀のかがやきが
柔くもろい鎧となって
膚のきずが癒えるまで
しずかにじっと包むだろう
かなしみがもし
すみれの色をしていたら
ぼくの目からはしんしんと
夜があふれてくるだろう
そうして湛えた海の空
踊るようにもがき、あえいで
月に指先のとどくころ
やさしい眠りにつけるだろう
かなしみがもし
ばらの色だとするならば
ぼくの胸には燃えるような
川が今も流れている
そうしてばらが赤いのも
みもざの光が温いのも
あんずの香りが円いのも
すみれの汁が甘いのも
すべて人生だとするならば
すべてが人生だとするならば
耳の奥では
潮騒が
かちかちかちと
鳴っている
2024.12.20
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